ふるさと

 八年ぶりに降りたった

 新宮の駅

 初冬の肌寒い風がふき

 人通りの少ない午後

 ふるさとへは

 まだ幾つもの山をこえる

 

 高田口が過ぎ

 信じがたい光景が目に入る

 えぐられ黄土色のむき出した山肌

 もう水の色を失った川

 胸が鼓動する

 

 日足へと向かうバスのなか

 息を殺して傷ついた熊野川を見ていた

 変電所を過ぎれば宮井の橋

 ふいに嗚咽がこみ上げた

 想い出は遠い日にわたしを運ぶ

  

 この橋の下で

 弟の手を引いて日暮れまで遊んだ

 足の爪先まで透けて見えた流れ

 つづら折りの坂道の向こうに

 九重の山に抱かれたわが家が見える