四季の移ろい

秋は夕暮れ 夕日のさして山のはいとちかうなりたるに からすのねどころへと行くとて みつよつ ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり まいて雁(かり)などのつらねたるが いとちひさくみゆるはいとをかし 日入りはてて 風の音むしのねなど はたいふべきにあらず
 

 冬はつとめて 雪の降りたるはいふべきにもあらず 霜のいとしろきも またさらでもいと寒きに 火などいそぎおこして 炭もてわたるもいとつきづきし 昼になりて ぬるくゆるびもていけば 火桶(ひおけ)の火もしろき灰がちになりてわろし


 「枕草子」の冒頭から「秋」と「冬」を引いた。清少納言(本名は清原諾子 きよはらなぎこ)という人は四季の移ろいを見事に描く人で、この人の文章は声に出して読んでも心地よい。

 約1000年前、清少納言が見た四季はいまの日本にはもうない。秋がすすむ紀伊半島を走りながら、ふと、彼女に逢ってみたくなった。