廃校

  

 

  楠の木の下で

  約束したことがあった

  まだあわい光が残っていた

  春さきのあの校庭の隅っこで

  こころとこころがふれた気がした



  あわい光は

  空き地をやさしくつつんでいる

  春さきの黄や赤の草花が

  人知れず咲いている

  楠の木はなく

  背の低い木がフェンス沿いにある



  ブランコに腰をかけると

  あの人の声が聞こえてくる

  あの日

  なにげなく触れた手と手が

  和音のように心地よい

  旋律を奏でていた



  とりとめもなく蝶が舞う

  だれもいない廃校の隅っこで

  四〇数年まえの春さきを見る

  懐かしい心のままで

  あの約束を思い出す