神無月のころ

  なつかしき君に ひと筆もうしあげ参らせ候

  昨日はゆくりなくも御こえ聞き候ひぬ

  久しきときの流れたるほどにても 御こえの変わらぬは嬉しきこと如何

  ばかりなるや

  星霜をすぎ重ねたるも 往時の面影をしばしとどめてあらんことを願ふ
  
  など愚かなことと思ひ候

  この文したため候は 御こえ耳にしてより幾ときの後に候  

  君これをよみ給へるは幾日のちなるや あるひはまた月をこえ神無月の

  ころであろうか

  わが常のこころの願ひにて わがこころと同じものになり居たる君に逢

  ひまゐらせたるは わがこころの君に近づきたるしるしなるべくやなど

  思ひつづけ参らせ候